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"紐解く時間"

2016.8.27  CONTEXT-S
辻 有希×藤沢 レオ×馬渕 寛子

更新日 / 2016.10.18



今回の展覧会ですが、「紐解く時間」をテーマに企画しました。タイトルの”紐解く”には、時を紐解くという意味と、”読む”という意味も込めて、付けました。築50年のアパートを改装した時の流れを肌で感じられる空間「CONTEXT-S」で、“読む”をテーマに選書した約100冊の本と共に作品を展示し、来場者が本を読みながら、作品と共に過ごす時間や空間を感じてもらいたいと思っています。

馬渕さんは、出品作家の4人の中で、このテーマを最も意識して、より直接的な表現で制作されたように感じています。今回の出品作品は、どんな思いで制作されましたか?

馬渕

色々とイメージを広げていくことが苦手で、“読む”ということだけを考えて、制作した作品です。“読む”ことから、本や紙、インクの染みなどを連想し、作品に反映しました。
例えば、「読むひと」という張り子の作品は、展覧会の着想の原点でもあるアンドレ・ケルテスの写真集「ON READING(読む時間)」を見た時に、人々が読む姿を捉え、その姿がとても美しく思えました。どんな場面でも、人が新聞など何かを読む姿は美しいなと思い、その姿を石に見立て、作りました。

辻さんは、木の器と3点の家具を出品いただきました。実は、家具の制作は久しぶりだったとお聞きしていますが、制作をしてみていかがでしたか?

普段は、器やアクセサリーなどの手に収まるようなサイズの作品を制作しています。家具は、家という空間の中で使う物で、量感が全く違うので、器などと比べて、物に対する違う視点で作れたのが面白かったです。

今回は、器と家具を出品いただきましたが、その他アクセサリーやモビール、壁面のレリーフなど、幅広いお仕事をされています。制作する上で、意識の違いはありますか?

それぞれ物は全然違いますが、意識に違いは全くありません。家具も器もアクセサリーも、空間的な捉えかたを意識して作っていますので、気持ち的には変わりがなく制作しています。アクセサリーを作ることで、器に対する考えが変わったり、器を作ることで、家具作りについて考えることもあるので、様々な作品を作ることで、自身の物に対する考え方が少しずつ深まっている気がしています。

レオさんも、金属という素材と向き合い、出品いただいた彫刻や家具、その他店舗の看板や什器の制作など、幅広い仕事をされています。肩書も、彫刻家・金属工芸家として紹介されています。同じ素材と向き合いながら、制作する意識は異なると思いますが、彫刻と工芸、それぞれどんな思いで制作されていますか?

藤沢

意識にあまり変わりはないのですが、何に発信しているのかが明らかに違うと思います。アートは、自分の中の問題で、自分自身が疑問に思っていることや“問い”をどのようにして具体化していくか、それが彫刻の作品です。工芸は、「どう過ごしたいか」というお客さんからの問いかけへの回答です。「こういうのはいかがですか?」という答えを具体的に見せることが、工芸の作品です。
問題が自分自身にあるのか、あるいはお客さん側にあるのかで、アートと工芸の方向が違うのではないかと感じています。

それぞれへの制作の気持ちは同じで、「より良い暮らしを作りたい」という気持ちで制作しています。
彫刻家と工芸家の肩書を名刺にわざわざ書いているのには、理由があります。以前は、両方を手がけているので、造形家という曖昧な肩書を付けていました。ある時、「普段はどんなことをして生活しているの?」ということを聞かれました。「普段は、店舗の看板を作ったり、椅子を作ったり、工芸の仕事をしています。」と答えると、「工芸をやっていたら食べていけるよね。」と言われました。何気ない返答かもしれませんが、僕自身、その返答がすごく引っかかり、その日から、工芸に対する気持ちも込めてこの二つの肩書を付けて活動しています。

今回出品いただいた彫刻作品ですが、金属の色に対して、非常に対照的で且つ印象的なピンクとブルーの色が使われています。最近のレオさんの作品を観ると、小作品から大型作品、インスタレーションにいたるまで、よく使用されている色ですが、どのような意味が込められているのでしょうか?

藤沢

僕の素材は鉄なので、色が限られます。ファインアートの作品を作るうえで、少なからず観客に対してショックを与えたいと思い始めた時がありました。そこで、何か差し色として色を入れたいと思い、ある地下の暗いギャラリーで展示する機会があり、差し色として最初は“白”を選びました。ただ、白では、僕が思い描くショックな空間になりませんでした。そこで、色々な絵具を塗って試したところ、このショッキングピンクの色が視覚的に美しくて、少なからずショックを与えられるのではないかと思い、使い始めました。一方で、当時の僕は、この色が嫌いでした。ただ、自分の中の疑問を探すのが好きで、嫌いなものに対する興味が好きなものより強いので、当時嫌いだったピンクにより興味を持ちました。「なぜ僕はピンクを使い始めたんだ?」という疑問を知るために使い続けています。
彫刻に関しては、生と死をテーマに制作しています。ある時、この色の細い一本の糸を垂らした時に、生命感や血脈のような感覚を得て、この感覚を探し出して、この色を使い始めたのかなと今では思います。

ブルーは、自分の中で湧き上がる考えや思考という意味合いと、ブルーシートの色も想定しています。ブルーシートは、よく目にすると思いますが、最近は災害が非常に多いので、テレビ画面にもよく映りますよね。僕は、この色をポジティブな色と捉えたくて、大きな災害にあっても、ブルーシートをかけて、それでもそこで生きるという志の色として使いたいと思っています。ブルーを使った最初の作品は、柱を立てるような作品でした。柱を立てた時点で、そこは、その人の場所になります。太古の時代まで想像して、人間の最もポジティブな活動として「柱を立てる」という行為とブルーシートの色を重ねて制作しました。

馬渕さんは、今年の5月まで、札幌で紙の店「馬渕」を営まれていました。初めてお店を訪れたとき、紙という素材に拘り、真摯に向き合われている心意気に感激しました。
「紙」という素材には、どんな魅力がありますか?

馬渕

私にとっての紙の魅力は、質感です。和紙の光沢感やつやのある感じ、マットな感じ、ざらざらした感覚など、視覚的な感覚も好きです。また、紙を触ってみると、薄い紙はシャリッとして、厚い紙だとボテッとしたりする触覚も良いものです。和紙独特の匂いなど、紙が好きな理由は、質感、それに限ります。

辻さんの作品は、いくつか使わせていただいていますが、お花を活けたり、焼き菓子をのせたり、使うことでより器の魅力を感じますが、重ねて戸棚に置いておくだけでもその姿が美しく、デザイン性を感じます。使っていないときの視点も意識しながら制作されているのかなと感じるのですが、デザインについて、どんな視点を大切にして制作されていますか?

器もアクセサリーも物なので、使ってこそ美しい姿があると思っているんですが、使っている時間は意外と短く、飾っていたり、戸棚にしまっておく時間のほうが長いように思います。器としての晴れ舞台がどちらかは分からないのですが、使っている時間以外の瞬間も、器に持たせてあげたいと思います。実は、木工より、デザインに進みたいと思っていたこともあり、プロダクトデザインの視点からも考え、制作しています。メーカーに勤めていたこともあって、以前は、見た目的にもデザインしている要素が強い器やアクセサリーを制作していましたが、今は、日常でふとした時に、この角度から見ると美しいなと発見してもらえるような秘めたデザインを意識して制作しています。

辻さんは、今回の会場、CONTEXT-Sでの展覧会は、グラフィックデザイナーの阿部寛文さんとの2人展につぎ、3回目となりますね。今回も、他ジャンルの作家さんの作品と、近い距離で同じ空間を共有する展示となります。前回と比べて、辻さんの目には、どんな風に映っていますか?

異素材の作品と隣り合うことで、自身の作品の見え方も変わるため、とても面白いと思います。CONTEXT-Sでは3回目の展示になりますが、同じ空間ではありますが、どれ一つ同じ見え方はありません。この会場は、作品を見せるというよりは、空間を創ることの比重が大きいように感じています。

馬渕さんは、今後紙を使って表現してみたいこと、挑戦してみたいことはありますか?

馬渕

新しいことに挑戦したいというよりは、今使っている素材と向き合い、もっと違った見せ方や表現ができないのか、素材をより追求していきたいと思っています。

最後に、3人それぞれにお聞きしますが、「読む時間」は、ご自身のなかでどのような存在でしょうか?

藤沢

20代後半の時に、救いようがないほど無知だなと感じたことがあり、その頃から本を読むようになりました。それ以前は、三国志や今回紹介した「シャーロックホームズの冒険」などを読んでいたぐらいで、あまり本を読んでいませんでした。その後、雑食読みをしていて、人から薦められた本などどんな本でも読みました。1冊読むと、その本の中からまた新たな興味が生まれ、次の本を買う、自分の無知を反省する意味と、自分の興味がどちらに向いているのか整理整頓の時間のように感じています。本は自分を成長させてくれる、そんな存在です。

私もそれほど本は読まないんですが、本は勉強のために読むことが多いです。読むことは、自分の世界を広げてくれます。本の内容ももちろん大事ですが、本の装丁にも興味があり、また字の連なり、ページの余白など、空間としての興味もあります。

馬渕

私もあまり本は読まないのですが、同じ本を10年以上かけて、何度も読み返しています。変化をするのが苦手なので、同じ本を読み、それでも毎回新鮮な気持ちで読むことができ、新たな発見を楽しんでいます。

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