withart

Artist talk

Page to Back

Artist Talk

"CURRENT"

2012年10月6日(土)19:30 space SYMBIOSIS
武田 享恵(工芸家) × 小路口 力恵(ガラス作家)

更新日 / 2012.10.12


小路口 力恵さん(左)、武田 享恵さん(右)


武田さんは、今回出展いただいた「月夜の雫」のような、大きなオブジェ作品を多く発表されてきました。今回は、折敷や器など実用的な作品も制作されていますが、このような表現が生まれた背景として、何か制作に対する姿勢に変化がありましたか?きっかけになるような出来事がありましたら教えてください。

武田

溶接をしてみたいという好奇心から金属を始め、大学時代に金属工芸を専門とする先生から指導を受け工芸の基礎的な技術を学びました。その後、鉄を使った大きなオブジェなど表現的な要素の強い作品を制作していましたが、気持ちのどこかで工芸を手放すこともできない自分がいました。
また、年を重ねるにつれて、伝統工芸の分野にも心惹かれるようになり、展覧会へ足を運ぶようにもなりました。

金属という素材は、ドアノブや鍵、車、あらゆる場所で使われている素材ですが、生活の中で馴染みのない素材に思われがちです。肌に直接触れられるような器や、日常生活で使用できるものを制作し、金属をより身近に感じてほしいと思い、サイズの小さい作品も少しずつ手掛けるようになりました。この時点では、自身が制作する器の方向性が定まっていませんでした。

その頃に、ある展覧会で衝撃的な出合いがありました。ある陶芸家の器を見て、小さくても、そこに無限に広がる宇宙のような大きな世界観を強く感じ、心から感動しました。その衝撃的な出合いをきっかけに、今回のような作品が生まれました。

小路口さんも、実用的な器の他にオブジェも制作されていますが、制作するうえで意識の違いはありますか?

小路口

オブジェを制作するときは、より自由な気持ちで作品に向き合うことができます。実用的な器などは、大きさや形に制限があるので、気持ち的に少し固くなって制作しているかもしれません。ただ、どちらの作品も「やさしく、やわらかく、ここちよい」というコンセプトと向き合って制作しています。

小路口さんの作品は、吹きガラスを、さらに手で磨いたり、削ったり、手を使って制作されている作品です。展覧会の準備段階で、「自分の作りたい形を作りだすには、手を使うことが一番だ。」とお話されていたのが印象的でした。学生時代の経験が今の制作に大きな影響を与えているとお話されていましたが、どんなことがきっかけになったのでしょうか?

小路口

ガラスを制作する前は、グラフィックを学ぶ学校に通っていました。その授業の課題で、一枚のコンパネを使用して椅子を制作したことがあり、木の断面をヤスリで削っていたときに、形あるものに手で触れられる感覚を肌で感じ、モノづくりに興味を抱くようになりました。

その後、ガラスを学ぶことになりますが、富山は、“ガラスの街とやま”と呼ばれるほど、ガラス制作の環境が整っている街です。ガラスを学ぶ学校もあり、ガラス工房や、個人の作家への支援も充実していたため、自然に、一番身近にある素材でモノづくりを目指すことになりました。

新しい“ふくら”シリーズの作品は、吹きガラスをヤスリで削って表面を仕上げますが、その作業が、学生時代に組み立て椅子を制作したときのヤスリがけの感覚と似ていました。自分がやりたかったことは、やはり手で触って制作することだと再認識したのを覚えています。

お二人は、色々な素材や媒体があるなかで、金属とガラスという一つの素材と向き合い、制作されています。それぞれの素材の魅力について教えてください。

武田

自分自身もこんなにも長く制作するとは思いもよりませんでした。急いで制作すると、素材にそっぽを向かれます。丁寧に向き合うと、応えてくれます。思う通りの形に制作することはとても難しく、毎回毎回、宿題を出されます。その宿題を終えるまでは、制作を止めることはできず、だから続けているのかもしれません。思い描く形を、素材が導いてくれる形に変化することもあり、素材に学ばせてもらうことが多いです。

小路口

常に意識していることは、素材そのものを生かして、形で表現したいと思っています。ガラスを磨いたり、削ったりすることで、ガラスの表面にメリハリができます。削りと磨きによって創り出される表面が、光を受け、光を包み込むその姿が、ガラスの魅力だと感じています。


和やかな雰囲気のなか、トークが進みます。


”会場からのご質問”
武田さんは、鉄やアルミ、錫を使って、「鍛金」という手法で造られている理由を教えてください。

武田

鍛金という手法は、小さな作品を造るにも、丸一日、二日掛かります。そのスピードが、自分のペースにあっていると思います。時間を掛けて少しずつ姿を変え、その姿に愛着がわき、無機質なモノが命を宿していくような気がします。


TOP