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Artist Interview

"現代に生きるスリップウェアの魅力"

伊藤 丈浩


栃木県益子で、イギリスで古くから作られてきたスリップウェアを制作されている伊藤丈浩さん。
伝統を受け継ぎながらも、現代に生きるご自身の感覚を大切にし、独自の視点で作品を展開されています。8月にCONTEXT-Sで開催する「紐解く時間」への出品を控え、スリップウェアとの出合いや、制作への思いをお聞きしました。

更新日 / 2016.8.22



焼き物が盛んな地は様々ですが、益子に移住する決め手となったのは、何だったのでしょうか。

伊藤

実は、一度焼き物から離れたことがあり、飲食店に勤めていたこともありました。それでも、焼き物をやりたいという気持ちは捨てきれず、気持ちをリセットするために千葉県の実家に戻った時に、親の勧めで益子に訪れました。見学に伺った製陶所での活気に惹かれ、「やっぱり陶芸をやりたい!」という気持ちを再認識し、その場で面接の依頼をし、益子へ移住しました。

スリップウェアを志すきっかけは、どんなことでしたか。

伊藤

英国よりスリップウェアを持ち込んだ濱田庄司のゆかりある益子では、10年前の当時スリップウェアを作陶している人がほとんどいませんでした。そのため、自身の自由な発想で始められたのも良かったと思います。やってみると「民藝」の視点からではなく、スリップウェアの技法そのものに魅力を感じ、これを挑戦してみたいという思いだけで、スタートを切りました。

アメリカで様々な作品を見て回られ、日本の陶芸との違いは感じられましたか。

伊藤

アメリカは異人種が集まった国なので、日本のように陶芸独特の定義慣例に固執する感覚があまりなく、“素材”として自由に表現をしている印象を受け、その軽やかさが心地よく感じられました。帰国後、約一年掛けて日本の陶産地の旅をして、魅力的な場所があれば移住も考えましたが、スリップウェアを制作したいという気持ちは変わらず、益子で引き続き制作しています。
他の産地に比べて益子は歴史も浅く、移住者も多いことから視野の広さがあって、誰もが思いのままに制作できていると思います。
益子は、世界を旅していた濱田庄司のグローバルな感覚が根付いていたので閉塞感はなく、都心から近いことで様々な感覚を得やすい独特な様相を呈している土地だと感じます。

スリップウェアのどんなところに魅力を感じて、制作されていますか。

伊藤

泥の潤い、瞬間の交わりが一番おもしろいと感じるところです。泥で描くのは、鉛筆で線を引く感覚とは全く違います。泥の上に泥を掛けるので不自由さもありますが、泥ならではの表現が生まれます。
一般的な陶磁器は成形したものに加飾していきますが、この技法の特徴は、平面の粘土板に泥で模様を描いた後、型で成形するところです。
器の形になる前の模様は、平面の時でしか得られないものとなり、大胆に試みることが出来ます。
その工程のズレで起こる表現に一番のおもしろさを感じています。

今回の「紐解く時間」展に出品いただく作品について、どんなことを意識して制作されましたか。

伊藤

今、日本で作られているスリップウェアは、主に1200℃~1300℃ぐらいの高温で焼かれています。
「紐解く時間」に出品する作品は、時がテーマということで、イギリスで18世紀から19世紀当時、焼かれていたであろう低い温度(約1060℃ぐらい)で焼き上げました。
今年から手掛けているのですが、表情も質感も柔らかく、温故知新で新たな可能性が感じられます。
本を読む傍らに、日常で使って楽しんでもらえるような作品を意識して、制作しました。

伊藤さんの作品は、伝統を受け継ぎながらも、現代に生きるご自身の感覚でスリップウェアを制作され、一目見るだけで伊藤さんの作品だとわかるオリジナルの模様も魅力的です。今後、新たに挑戦していきたいことはありますか。

伊藤

スリップウェアは、平らな板に絵付けしてから型で形を起こすため、皿・鉢に終始し、ろくろを回して作る背の高い立ち物はほとんどありません。
そこで、何か立ち物を作ることができないかと考えていた時、旅行中に仕事をさせていただいた沖縄の陶器や、立ち寄った小鹿田焼の作り方が頭をよぎりました。

沖縄も小鹿田焼も、挽いたものを削る前に白泥で加飾する独特な工程で作ります。
その着想から、ろくろで挽いて切り離す前に白い泥を塗り、ろくろを回しながら平刷毛でトントントンと筋状の模様(打ち刷毛目)をつけます。
挽いた直後の潤っている状態なので、泥をたっぷりとのせることが可能で、打ち刷毛目の激しい凹凸が出来ます。
そこに他の化粧土を掛け、乾燥させてから表面を削ると独特な象嵌模様が現れます。
作業工程のズレから、そのタイミングでしか成し得ない表現はスリップウェアの工程に通ずるものがあり、そこが気に入って近年手掛けています。

伝統を継ぐという気概は特別ないのですが、様々な焼き物の流れがあるからこそ自分は焼き物を作り楽しむことが出来ています。
その事に感謝しつつも、少しでもその裾野を広げられるような新たな視点や価値観を生み出すおもしろさを探ってみたいと思っています。
それが現代に生き、未来に繋げる自分達の役目ではないかと考えます。

収録日:2016年8月3日(水)

伊藤さんに出品いただく「紐解く時間」展は、築50年の古いアパートを改装したスペースCONTEXT-Sで開催いたします。長い時を経て積み重ねられた、そこにしかない空気が流れている空間で、「紐解く(読む)時」をテーマに、ジャンルの異なる4人の作品による展覧会です。会場には、「読む」をテーマに選んだ本や雑誌も展示販売し、その場で読む時間を楽しむことができます。ぜひ、作品と共に、それぞれの読む時をお楽しみください。

読む時を演出する作品展「紐解く時間」
2016年8月27日(土)~9月2日(金)11:00~19:00 (会期中無休)
会場:CONTEXT-S
〒064-0921 札幌市中央区南21条西8丁目2-10


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