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Artist Interview

"戻れない時間を描く、ペン画の魅力"

守屋美保


10月にギャラリー門馬「ANNEX」で企画している“ensemble”に出品される守屋美保さんに、
ペン画を描き始めたきっかけや、制作への思いなどをお聞きしました。

更新日 / 2014.9.4



初めて守屋さんの作品を拝見したのは、札幌の真駒内にある六花ファイルの作品でした。 いくつもの点やラインが集まり、一つの情景が浮かび上がる作品に魅力を感じ、 ぜひ、もう一度北海道で作品を観る機会をと思い声をかけさせていただきました。様々な表現の手法がある中で、ペン画を描かれる魅力は何でしょうか?

守屋

私は油絵科出身ですが、油絵に対してコンプレックスを抱いていました。綺麗に絵具で色が塗れなくて、自分がこうしたい、こういう絵が好きだという絵を描くことができませんでした。 ペン画を描くきっかけは、学生時代に失恋して落ち込んでいた時に、学校の図書館で出合った1冊の本でした。その本に載っていた細密な木や植物を描いていた銅版画を見て、これなら私にも描けるかもしれないと思いました。自分が大事にしていたものが揺らいだ時に、手を伸ばしたのがペン画で、色がなく、描き直しができない、下描きもしない、そんな戻れない時間を描いていると、自分になれる気がしました。

油絵の一番怖いところは、描いても消すことができるところです。今まで積み上げてきたものが一瞬でなくなることが切なく思えて、でもそのやり取りを含め、油絵の魅力だとも思います。 ただ、私は確かなものが欲しかったので、消せないことで安心感を覚え、消さなくて後戻りはできないけれど、いくらでも修正できると思って、ペン画を描いています。

動物や自然物がモチーフになっている作品が多いようですが、ご自身の記憶や経験の中で大きく占めているものなのでしょうか。

守屋

子どもの頃の環境が大きく影響していると思います。長野県茅野市で育ち、手つかずの自然が残っている山の中で過ごしました。家の中にも外にも、植物や動物が溢れ、自然を身近に感じながら育ちました。作品にシカや狼などの動物をモチーフにしたものが多いのは、私にとって、シカは、身近な動物でありながら神聖なものに感じているからです。懐かしいけれど、近寄りがたいイメージがあって、草食動物とは別の、動的な荒々しいニュアンスが自分の中で生まれています。

「浮島」、「罪なき衣」、「眠れる星」など、守屋さんの作品のタイトルは創造する楽しさを与えてくれます。言葉を大切にされている印象を受けますが、何か「言葉」への思いはありますか?

守屋

絵を描くことと同じくらい、文章を書くことも大事なことです。話をするのが苦手で、後で思い返して、ああ言えば良かったなと思うことがよくあります。文章にすると、自分の感覚を確かめられるので、作品を描く気持ちとあまり変わらないかもしれません。 私の絵を観ることで、鑑賞者に何か思うことが起こってくれると良いなと思います。「今日これから何を食べようかな」、「喧嘩してしまったあの人はどうしているかな」とか。絵と関係のないことであっても、その絵が呼び起こす力になってくれたら嬉しいです。そういう感覚があって、ギャラリーだけではなく、喫茶店などで、ぼーっと見つめてもらえたら良いなと思い、2つの空間で展示することを意識しています。

10月の展覧会では、集合体をテーマに、伊賀信さんとの2人展になります。伊賀さんの木のパーツを使った集積が、空間と守屋さんの作品と交錯し、空間を構成したいと考えています。守屋さんは、どんな思いで制作されていますか?

守屋

最初に、一緒に展示をする伊賀さんの作品を、極力意識をせずに制作しようと思いました。 意識をしてしまうとそのことで頭がいっぱいになって、制作で一番大事にしている作品との対話が疎かになってしまうと思ったからです。 伊賀さんの作品をあまり意識せずに、今描けるものを描くこと、それだけを考えて制作しています。

制作していると、現実にはあり得ない組み合わせで具象的な形と抽象的な形が混ざっていくことも多いです。 デッサンとしては狂っていることもありますが、私は平面をどこまでも平面のままにしていきたくて、あえてそこで狂いをただす事はしないようにしています。

絵が要求してくる画面全体の調和、それが何よりも大切です。 絵の声に耳を傾けながら制作したひとつひとつを間近で観ていただけたら嬉しいです。

会場となるギャラリー門馬&ANNEXの「ANNEX」は、幅1.6m、高さ2.14m、奥行き15mの細長い筒状のギャラリーで、守屋さんが描くペン画を近い距離で観ることができます。
タイトルの“ensemble”は、個々の要素の集合体を意味します。
伊賀信さんの作品は、木材のパーツで構築され、空間に応じた造形が生まれる、まさに集合体の作品です。
守屋さんが描く、点やラインの集積によって生まれる作品と一つの空間で共鳴し、作品と空間、周辺環境が寄り添い、新たな空間を創り出したいと考えています。
ANNEXに浸透する光を捉え、作品を眺め、自己を見つめる機会になってくれたら、嬉しく思います。

“ensemble”(アンサンブル)
伊賀 信 (美術家)× 守屋 美保 (画家)

ギャラリー門馬&ANNEX
札幌市中央区旭ヶ丘2丁目3-38
2014年10月4日(土)~13日(日・祝)*会期中会無休
11:00 – 18:00


収録日:2014年5月27日 東京にて

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