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Artist Interview

"今できる抽象表現とは何か"

伊賀 信


10月にGallery 門馬ANNEXで開催する「ensemble」に出展される、伊賀信さんにお話を伺いました。札幌を拠点に建築的な思考で幾何学的な造形作品を手がける伊賀信さんは、
小さな木のパーツで創り上げる精密な作品から、積み木のような素材を使ったインスタレーション作品など、幅広い表現で制作されています。

更新日 / 2014.9.17



2006年に「幾何学的抽象芸術実験室、G.A.A.L」を立ち上げられましたが、これはどのような試みで設立されたのでしょうか。

伊賀

自分の名前より、やっていることを主張したいと思い、付けた名前です。自分がやっていることは何かと考えた時に、「幾何学的な、抽象的な、芸術の実験室」ではないかと思い、それを英訳した頭文字を愛称として付けました。

その表現をされる作品として、「木」を素材に選ばれていますが、何か理由はありますか?

伊賀

実は、最初に幾何学的な表現を試みた作品は、木ではなく、糸を使った作品でした。幾何学的な表現として「線」を強調したいという思いがあり、画面に糸を張り、形を固定した後に着色した作品です。この時点では、この方法しか思い浮かばず、何か違うなと感じながら、制作をしていました。その後、札幌に東急ハンズがオープンし、そこで1ミリ角のヒノキ材を見つけて、これだと思いました。自分がやりたいことを大いに表現できると感じた素材に出合いました。木でなければ表現できなかったのではなく、表現したいことを形にする素材が「木」だったのです。

伊賀さんの、特に細密な作品は、着色が印象的な作品です。制作する上で、着色による表現、使われる「色」に対して、どんな重きを置いていますか?

伊賀

綺麗な色が好きで、特に赤が好きな色で、赤、黒、白が永遠のテーマカラーです。ファッションにも興味があり、作品の着色は、洋服選びをしているような感覚でやっています。 木のナチュラルな雰囲気も好きですが、最終的に着色をして作品を仕上げることが大事だと思っています。制作過程で、木の状態のままの作品を見ていると、このまま完成にしても良いかなと思うときもありますが、中途段階だと思い、塗らなければという思いが強いです。

伊賀さんの作品は、精密な平面の作品と、積み木のようなインスタレーション作品と、大きく分けて2種類の作品がありますが、制作する上で意識に違いはありますか?

伊賀

制作の最終的な目的として、より大きな作品を制作したいという思いがあります。インスタレーション作品は、平面の作品から第一段階先に進んだものですが、仮設です。常設の大きな作品を制作したいという思いがあり、平面の小さな作品は、その模型のような作品です。小さな作品もインスタレーションも、同じ意識で制作し、延長上にあるものです。インスタレーション作品を制作するようになったのは、以前から考えてきたことが、ようやく具体化してきたのだと思います。

幾何学的な要素を表現したいと思われたきっかけはありましたか?

伊賀

20代の頃、展覧会を開催する友人たちに触発され、25歳で初個展を開催しました。その頃は、具象を極めた後に、抽象という応用編があると思いこみ、初個展はモノクロームの具象画を発表しました。
当時、ギャラリーMIYASHITAの前身である「LABORATORY」によく通っていましたが、抽象表現について悩んでいたときに、オーナーの宮下さんから大事な言葉をいただきました。
「今できる抽象作品を作ればいいのよ」と。
その言葉をきっかけに、さあーっと視界が広がり、意識が解放され、抽象的な表現を試みることができました。

抽象的な表現が主でありながら、平面の作品においては、アルファベットや数字など具体的なものをモチーフにした作品も制作されていますが、どのような意識で制作されていますか?

伊賀

以前から、展覧会の案内ハガキを手にした時に、タイトルなどに使われる書体が気になっていました。中でも、スッキリと見えて読みやすく、綺麗な書体である、ヘルベチカに魅力を感じ、自分の展覧会の案内にも積極的に使用していました。また、私にとってファッションは身近にあり、とても関心がある分野の一つですが、コモ・デ・ギャルソンにヘルベチカが使われていることを知り、さらに魅力を感じました。同じように、建築にも興味があり、自身の興味関心が作品に結びついているのだと思います。

今回の展覧会「ensemble」は、平面と立体という二つの手法で、それぞれのパーツが形作る集合体をテーマにした展覧会です。ANNEXの空間や、守屋さんの描くペン画から、何かイメージを描いているものはありますか?

伊賀

実は、ANNEXの空間は、以前からとても魅力を感じ、いつか展覧会を開催したいと思っていました。守屋さんの作品は、画像でしか拝見していませんが、非常に緻密な作業に感服する作品です。作家の心が出ているというか、作家の心象風景が指の先から出てきた作品のように感じます。具体的に描いているイメージはまだありませんが、守屋さんの作品をあまり意識せずに、制作したいと思っています。

“ensemble“(アンサンブル)
伊賀 信(美術家)× 守屋 美保(画家)
2014年10月4日(土)-13日(月・祝)
11:00 – 18:00

ギャラリー門馬ANNEX
札幌市中央区旭ヶ丘2丁目3-38


収録日2014年9月9日 札幌にて

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