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Artist Interview

"人と植物は対等な関係"

君島 信博


北海道・岩見沢にアトリエを構え、
苔盆栽を制作されている“草つ月 kusatsuduki”の君島信博さん。
6月に開催する展覧会「The hanging Garden – 空中庭園」への出品を控え
苔盆栽の表現や、植物と向き合う思いについてお聞きしました。

更新日 / 2014.3.17



長年向き合われている“苔盆栽”ですが、興味が芽生えたきっかけになるようなことはありましたか。

君島

今思うと、20歳の頃に、庭にキンセンカを植えたのが植物と関わりを持つ最初のきっかけでした。 キンセンカは、小学校の時に触れた身近なお花で、ふと庭先に植えたいと思い、育てました。
今思うと、そのキンセンカとの関わりが、今の盆栽につながっていると思います。 キンセンカに始まり、野の花や木にも興味も抱き、その後、偶然知り合ったお爺さんとの出会いから、“盆栽”へと興味が移行していきました。 そのお爺さんが作る、切なくなるような情景の盆栽に魅了され、時間を見つけては通い、盆栽の育て方など様々なことを教わりました。
また、生産者の下でも修業をさせていただきながら、納得のいく形が作れるようになるまで、10年以上の月日が流れました。
盆栽で仕事をしていきたいと思ったのは、「空中庭園」を開催するPlantationの1号店である、「森彦」の創業前にあった「月庵」での展覧会でした。その展覧会で数点の盆栽を売ることができ、自分が作った盆栽を気に入り、喜んでくださる方がいるのだと感動したのをよく覚えています。その体験がなければ、今の自分はないかもしれません。

君島さんの苔盆栽は、ショップでの展示販売のほか、苔盆栽を使用した空間全体を表現する展覧会も行われています。苔盆栽を使った「表現」を追求されている理由は何でしょうか。

君島

盆栽の最初の出合いであるお爺さんが作った盆栽は、個々の盆栽も素敵でしたが、いくつか並べることで、さらに満たされる情景が生まれていました。同じ作品であっても、設置する場所によって見え方や雰囲気が大きく異なります。ギャラリーなどで発表する時は、苔盆栽とその空間から生まれる雰囲気を感じるのがとても楽しく、続けています。

“苔盆栽”という素材(植物)は、他の造形作品の素材と違い、人が思うように形作ることがより難しいのではないかと思います。人と植物との関わりの中で、作品を育てていくものなのかなと思いますが、ご自身と植物の関係を、どのように感じていますか。

君島

他の作家さんの作品とは、性質上少し違うのではないかと思います。私が作る作品は、自分の命ではないと思うからです。
植物との関わり方は、人それぞれ、どう関わりたいかによって異なります。例えば、ある女性が「植物を育てている自分が好きだ」とお話をされていました。自分の中には全くない視点でしたので、驚きました。 第三者の視点で、育てている自分を考えたことなどなかったからです。
植物を都合のいいように動かしている、一方で、植物にいいように使われている、人と植物は対等な関係だと思います。その関係性に気付いてからは、手放すのが気持的に楽になりました。

今回の展覧会は、「空中庭園」というテーマで空間の造形作品として「庭」を展開する予定ですが、庭は日常生活の中で、人と自然が接点を持てる身近な空間であると同時に、人工的で、鑑賞に値する芸術的な世界観も表現しています。日頃から庭造りにも携われている君島さんにとって、“庭”とはどういうものでしょうか。

君島

自分が感じたいものを感じられる空間が、自分にとっての“庭”だと思います。以前、よく見に訪れていた場所があり、誰が作ったわけでもない自然の空き地がありました。笹薮を抜けると、ぽかんと小さな広場があり、木が鬱蒼と生い茂っていた場所で、風の囁きや遠くで水の音が聞こえたり、木漏れ日が当たっていたり。ただ気持ちが良い場所ということではなく、少し怖くて緊張感のある場所でした。その優しさと怖さを織り交ぜた感覚が、まさに私が思い描く自然の姿で、私にとっての“庭”だと思います。

最後に、長年向き合われている“苔盆栽”の魅力を教えてください。

君島

どこに魅力を感じるかというよりは、家族の一員として同じように思うペットのような存在、という感覚が一番近いかもしれません。盆栽を育てることができなくなったら、生きている意味がないぐらいのものです。 自分が気に入るかどうか、良いと思えるかどうか、自身の気持ちを信頼し、向き合っているのだと思います。 ただ、自分の思い通りに、植物を扱えるとは、全く思っていません。もし自分の思う通り100%のものを作ることができたら、面白くなくて止めていたと思います。7~8割ぐらいの形を作ることができたら大満足で、その時点で手放すことになります。 最近になって、少し気持ちに変化が生まれ、長い年月をかけて思い描く100%のものを見てみたいと思うようにもなり、手放したくない気持ちも、生まれてきています。

築50年の倉庫を改装したカフェの屋根裏空間で、 建築家の赤坂真一郎さんによる空間構成のもと、「草つ月」の君島さんの苔と、渡邊希さんの漆作品による架空の庭園が生まれます。

ぜひ、50年という時を刻んだ空間で、人工と自然の作品が共鳴し、新たに生まれる空気を肌で味わっていただきたいと思います。

The hanging Garden – 空中庭園‐
MORIHICO Plantation  札幌市白石区菊水8条2丁目1-32
℡011-827-8868
2014年6月6日(金)~15日(日)水曜定休 11:00~18:00

*アーティストトーク&パーティー
6月7日(土)17:00スタート
入場料:500円(1ドリンク付き)
簡単な軽食もご用意します。


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